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ビルやアパート・マンションのテナント立退き(建物明渡し)問題/適正な立退き料は?

ビルやアパート・マンションのテナント立退き(建物明渡し)問題/適正な立退き料は?

都心の好立地の土地が値上がりして、更地ではなかなか購入できない場合、テナント付きの古いビル・アパート、マンションを購入して、テナントの立退きを行って開発用地に仕上げようとする動きが多く散見されます。好立地の物件なのに、事情があり周辺に比べて極端に割安でしか貸せていない収益物件によくあるケースですが、今回のテーマはテナント立退きをしたいが、一体いくらが適正な立退き料?と聞かれるケースも多くなっております。不動産の中でも、高度な交渉能力が必要となる建物明渡し問題です。

立退き(明渡し)に関する大前提

そもそも日本における借地借家法は、その成り立ちから借家人有利に制度化されています。(以下借家法)

第三章 借家 第一節 建物賃貸借契約の更新等 第二十八条
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
(強行規定)第三十条  この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

特別な事情がない限り貸主側からの建物明渡しは難しい状況ということです。

例外として明渡しが認められるケース

⓵賃貸人が建物を必要とする事情…契約を解除したいと申し出ている賃貸人が、その建物を使う必要性と、賃借人がその建物を必要とする事情。
⓶賃貸借に関する従前の経過…権利金などの支払いの有無、その金額、契約上の義務の履行など。
⓷建物の利用状況…賃借人がその建物をどのように利用しているか。
⓸建物の現況…建物の老朽化により大規模な修繕あるいは建替えが必要になっていないか、建物敷地を利用する権利の喪失などの状況。
⓹賃貸人による財産上の給付の申し出(補完的事由)…財産上の給付、つまり立退き料を提供すること。ただし、立退き料の提供だけで正当事由を満たしていると判断されるわけではなく、他の事情も鑑みて、立退き料を支払うというのが正当事由の1つとして考えられるようになります。
具体的な例で言うと、

『老朽化が進んでいるために物件を建替えなければならない』、『貸主(家族含む)が、自分たちが住む必要性が出てきたため』というのが、正当な立退き事由としてあてはまるようです。

ただし、老朽化も『朽果て』て今にも崩れそうな場合でないとここでいう老朽化は認められそうにないようですし、居住の必要性に関しても、相応の事情がないと認められそうにありません。

具体的事例

人通りの多い、商業地の建物を所有するオーナーから、の相談案件。低廉な賃料でテナントが入居している古いビルを所有しているが、漏水や設備不調など、テナントビルとして運用が難しくなってきたため、ビルをどうすればよいか弊社にて相談を受けました。

特別な事情として、建物の脆弱性とオーナー責任としての『安全の確保』にかかる経済合理性(耐震補強には多大なコストがかかるため建替えたほうが早い)、に加えて移転先確保と立退き料の提供という補完要素を準備することにより正当事由を補完する形を取る必要があり、専門の不動産鑑定士、弁護士と相談の上、下記適正な立退き料を提供して、協議し賃貸借契約の合意解約を締結して建物明渡しを頂きました。

立退きに掛かる費用

上記はテナントビルでしたので、
•営業補償費用(閉鎖に伴う売上補償、新規顧客獲得にかかわる広告宣伝費など)
•工作物、動産の補償費用(設備投資、内装費の補償など)
•移転先契約に掛かる諸費用(仲介手数料、礼金、敷金、火災保険、前払い賃料)
•移転先近隣の駐車場契約に掛かる諸費用(仲介手数料、礼金、敷金、前払い賃料)
•引越し費用、引越しの挨拶状の印刷、郵送費  などが算出根拠となりました。

立退きに掛かる手間

•移転先を探す、契約処理など、契約駐車場の解約
•引越作業
•転出/転入届け、各種公共物の届け出、公共料金の届け出、ガス開栓立ち会い
•各種住所変更届け(郵便局、免許証、電話回線、携帯電話会社、金融機関、保険など)
•転居はがきの作成  など

借手に負担ばかりの立退き

このように、多くのお金と手間と時間を費やすことになります。引越しを丁度考えていたということでもない限り、一方的な要求を素直に受け入れる方はほとんどいません。このことから、借主は『借地借家法』という法律できちんと守られているわけです。

かつては、反社会勢力の力を用いて、立退きを進めたケースや賃借人に不利な契約を締結し、それを根拠に立退きを進めたケースが散見されましたが、コンプライアンスや遵法性に社会的な注目が注がれている現在では、入居者との協議による解決を見出す必要があり、以前に比べてこのように、多くのお金と手間と時間を費やすことになります。移転先を整えて、話し合いで一件づつ納得頂きながら交渉を進めることが、解決の早道と考えます。

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