コラム・特集

空き家問題2~ 相続した家を売却する際の税制上の優遇について

以前、当コラムで「空き家」問題について取り上げました。そこでは、老朽化が進んだ空き家を放置したままにすると、防犯および防災上の問題が生じるだけでなく、地域の景観を損ねることで地域全体の不動産価値に悪影響を与える可能性があることを説明しました。
この空き家問題については、行政サイドでも問題視しており、様々なメニューを用意して解決にあたろうしています。今回は、そのうち平成28年に創設された『相続した空き家を譲渡した際の3,000万円特別控除』の特例の紹介をしたいと思います。

特例の概要

特例が創設された背景

「空き家」が発生する大きな要因の一つが、一人暮らしの親が住んでいた実家の相続です。相続した子供がそのまま実家に戻ってそこで生活を再開すれば問題はないのですが、すでに独立し他の場所で生活を営んでいるケースも多く、親が一人暮らしをしていた実家に戻るというのは、現実的にはなかなか難しいことと思われます。
こういった事情もあって、子供が相続で実家を取得したものの自宅として利用する機会が乏しく空き家のまま放置されることで老朽化が進み、このような「空き家」が増えることで、最終的に社会問題にまで発展してしまうわけです。
そこで、親の相続で空き家になってしまった実家のうち築年数が古いものをターゲットにした優遇措置が、税制面で導入されることになりました。それが、今回ご説明する『相続した空き家を譲渡した際の3,000万円特別控除』という特例で、この「相続空き家」の取り壊しを条件に、更地にした敷地を売却した場合(※)に、所得税及び住民税の軽減を図ろうとするものです。
具体的には、これから説明する条件を満たすことで、敷地の売却益について最大3,000万円の特別控除を受けることができます。
※)なお、相続空き家に耐震リフォームを施し、土地付き建物で売却するケースについても特例の対象となります。

特例を受けた場合のメリット

では、この特例を受けた場合、税金面でのメリットはどの程度のものなのでしょうか。更地の売買価格が4,000万円(更地の簿価は200万円とします)のケースで考えてみましょう。
この場合、譲渡所得(売却益)が3,800万円(仲介手数料などの諸経費は説明のため考慮していません)となります。特例がない場合はこの3,800万円をベースにして所得税・住民税を計算しますが、この特例を適用することで譲渡所得が800万円となり、所得が減った分だけ所得税・住民税の負担が軽くなります。つまり、譲渡所得が3,000万円だけ圧縮されたことで、税額だと約600万円の減少が見込めます。(長期譲渡所得の税率:所得税等15.315%及び住民税5%、を念頭に置いています。)
なお、この「特別控除額3,000万円」ですが、譲渡所得(売却益)を上限に、最大で3,000万円控除するというものです。ですので、更地の(売却益からではなく)売却代金から優先的に控除するものではありませんし、また、譲渡所得が3,000万円に達しない場合は3,000万円全額は控除できない(譲渡所得がゼロになるまでしか控除できない)という点には注意しましょう。
売買の対象は、古くからある実家の敷地です。敷地の簿価は、売却価格との比較でかなり低くなる傾向があり、多額の譲渡所得の発生が考えられます。「相続空き家」の売却を少しでも考えているときには、この『相続した空き家を譲渡した際の3,000万円特別控除』の特例が使えるかどうかも、是非検討してみてください。

ポイント(その1)相続で空き家になっている実家を売却した場合には税務上の特例がある

● 「空き家」になっている実家を取り壊して更地にした敷地を売却すると、『相続空き家の3,000万円の特別控除』の特例を受けられる可能性がある。
● 実家は、築年数が古い(おおよそ築40年以上経っている)建物であることが条件です。

特例を受けるための条件(ステップ1)

条件はそれなりに厳しい

では、早速、『相続した空き家を譲渡した際の3,000万円特別控除』の適用を受けるための要件(条件)を見ていきましょう。
ところで、この特例を受けるための条件ですが、他の特例と比較して、判断が難しいものや思わぬ落とし穴となりそうなものが多くあります。さらには、売却直前ではタイミング的に対応が困難な条件も含まれていますので、実家の売却で特例を受けたいのであれば、かなり早い段階(つまり、相続があった時から)から準備や心構えが必要となります。
では、特例の対象となるのはどの様な人かをまずは挙げて、次の「ステップ2」で追加でそれ以外の条件を紹介していきたいと思います。
なお、これから説明する「典型的な人」以外の方についても特例の対象者になるケースがありますし、一部の条件には例外規定があり、この例外規定をうまく利用することで条件がクリアになるケースもあります。(ここでは、紙面の関係で典型的な対象者を前提にしたシンプルな解説を行っています。)例外規定が存在していないか、また、例外規定の適用が可能かなどの判断のために、個別に専門家の協力を依頼するのも手でしょう。(この場合、実家の売却の直前ではなく、前もって専門家に相談しましょう。)

この特例を受けられる可能性が高い人

次の①から④までの条件を全て満たすと、この特例の適用が受けられる可能性が高くなります。
条件① 実家で一人暮らし(※1)をしている親が先日亡くなり、実家が空き家の状態になっている。
条件② 相続人のうちの1人が、実家とその敷地をセットで相続した(※2)
条件③ 実家に戻ることは考えておらず、近いうちに実家の売却を考えている
条件④ 相続の時から実家の売却の時まで空き家になった実家と敷地の両方について、有効利用を一切していないし、する予定もない。
(※1)相続の直前まで、親が病院に入院・老人ホームに入所をしていたケースこれらのケースについては、生前に親が実家で一人暮らしをしていないため、特例の対象外になると思いがちですが、入院・入所の実態によって認められるケースがあります。専門家に確認をしてみるといいでしょう。なお、老人ホームに入所のケースですが、入所の直前までに要介護認定を受けていることが条件になっています。専門家に相談する際に、いつ要介護認定を受けていたかを予め調べておきましょう。
(※2) 複数の相続人が実家と敷地のセットを共有で相続した場合も、ここでの条件を満たしていると考えて差し支えありません。

ポイント(2)相続が始まってから直ぐに対策が必要

● 相続で実家とその敷地の両方を取得すること(遺産分割協議の時の財産の分け方次第では、適用の条件を満たさなくなります)
● 実家やその敷地の利用状況は、相続日の前後から特例を受ける前提で把握をしておくことが必要です
*実家は相続があった時から売却の時(取り壊しの時)までずっと「空き家」の状態にしておくこと
*また、敷地についても、相続があった時から売却する時までずっと「未利用」の状態にしておくこと

特例を受けるための条件(ステップ2)

では、先ほどの①から④までの条件を満たしている人が、さらにクリアしていくべき条件を説明していきます。(条件の番号は通し番号としましたので、⑤からスタートしています。)

条件⑤ 実家(建物)に関する条件

次の条件を2つともクリアする必要があります。
(a) 建物は旧耐震基準の時代の建物(昭和56年5月31日以前に建築されたもの)で、かつ、区分所有登記されたものではないこと
(b) 実家は、賃貸併用住宅でないこと
※実家が賃貸併用住宅で親の生前から賃借人(同居人も含みます)がいる場合は、特例の対象外となります。

条件⑥ 空き家になった実家の取り壊し

売却の時までに、空き家になった実家を取り壊して更地の状態にすること
※取壊しのタイミングが重要で、敷地の売却の時までに済ませておく必要があります。つまり、買主に敷地を引き渡す時まで(注)に、更地にしておきます。
(注) 税務では、不動産を引き渡す前のタイミングでも売却したものとして申告が可能です。つまり、不動産の売買契約日を売却日として申告することも可能ですが、この場合、更地にするタイミングはさらに早まり、不動産の売買契約日までに敷地を更地にしておかなくてはなりません。
※この特例は、そもそも放置されている空き家を減らしたいという趣旨で設けられた規定ですので、空き家の取壊しが強く求められる訳です。

条件⑦ 売却に関する条件

売却にあたっても、注意を要する条件があります。次の3つの条件もすべてクリアすることが必要です。
(a) 売却に期限
相続があった日の3年後の年末までに、更地にした実家の敷地を売却すること(注1)
(b) 売却先に制約
親子間、夫婦間、売主等が経営する不動産管理会社を買主にしたなどの売買を行う場合は、この特例の適用の対象外となってしまいます。(注2) なお、いわゆる「第三者」への売却に関しては、制約はありません。
(c) 売買金額に上限
売買代金が1億円以下であることが求められています。 「売買代金」(注3)と、比較する「1億円」(注4,5)はともに、考え方や計算が複雑です。 特に「1億円」の方については、今回の売買代金だけではなく、同じ実家の敷地であればそれ以外の売買代金も加味する必要があります。
(注1) ここでの注意点は、この特例自体に期限があることです。令和5年(2023年)12月31日が期限となりますので、令和3年(2021年)以降に相続があった場合は、3年後の年末を待たずに特例の期限が来てしまいます。
(注2) 同じ親族でも生計別の兄弟姉妹や配偶者の両親などへの売却については、特例の適用条件として認められます。
(注3) ここでの売買金額は、売買契約書上の売買金額だけが対象となるわけではなりません。 例えば、別途精算項目の固定資産税等清算金や敷地の実測による精算金なども加えて1億円以内に収まっているかどうかで判断します。
(注4) 複数の相続人が共同で敷地を売却する場合は、売主全員の売買代金で「1億円」以内かどうかを判断します。 例えば、相続人である兄弟2人が実家の権利を持分1/2ずつ相続した場合で、敷地が1億2千万円で売却できるケースを考えてみます。 相続人1人当たりの売買金額だと6千万円となり特例の適用がありそうですが、全体1億2千万円で判断しますので特例の対象外となってしまいます。
(注5) 上記のケース以外でも、この「1億円」の計算が非常に複雑になるケースがあります。
・敷地を分割して、年を跨いで売却するケース
・実家が、店舗併用住宅に該当しているケース
・実家(母屋)のほか、離れ・倉庫・車庫なども相続しているケース
・本人が、親の生前から実家の権利を一部持っているケース
この様なケースで複雑な事例については、専門家の判断を仰ぐのが無難でしょう。

条件⑧ 確定申告を行うこと

特例を適用した結果、納付が必要な税額が発生していないとしても、所得税の確定申告が必ず必要です。
また、確定申告にあたり、添付書類が必要です。以下の書類を予め準備しておきます。
資料1 相続した土地と家屋に関する登記事項証明書(登記簿謄本)
資料2 更地の売買契約書(必要額の収入印紙の貼付をお忘れなく!)のコピー
資料3 被相続人居住用家屋等確認書(実家が所在する市町村が発行する書類となります。)
※資料1と2は入手が容易な資料ですが、注意するのは資料3です。
資料3は、実家の所在市町村から入手しますが、発行申請の手続きが煩雑(色々と添付書類を求められます)で、かつ、確認書の発行を依頼してから時間がかかる(7~10日ほどかかるとのことです)など、確認書の入手に手間と時間がかかります。特に、添付書類の中に「不動産業者が作成した空き家になった実家(または、更地にした敷地)の販売時の広告」及び「実家の取壊し前の写真」とあり、確定申告の間際では用意が難しい資料も含まれています。確定申告の直前になって慌てないように、事前に準備をしておきます。

ポイント(3)特に気を付けたい条件はこれです

● どれだけ築年数が古くても、マンションは特例の対象にはならない
● 実家の敷地を売却する前に、確実に「空き家」を取り壊し更地にする
● 更地の売却期限、売却先、売買金額に制約がある
● 更地の売却金額は1億円以内であること。ただ、「売却金額」と比較する「1億円」の計算が非常に特殊です。
● 所得税の確定申告が必ず必要で、特に添付書類のために市町村が発行する「確認書」の入手に注意(入手のための申請手続きが煩雑)

特例が受けられた場合の注意点

最後に、すべての条件をクリアして、この特例の適用を受けた場合の注意点を説明します。

1回の相続につき1回に限りこの特例の適用が可能

・実家の敷地を更地にして分筆をしたうえで年を跨いで売却をしたとしても、いずれかの年にしかこの特例を使うことができません。

この特例を使うと一緒に適用することができない別の特例がある

・例えば、同じ相続した不動産に関係するもので『相続財産を譲渡した場合の取得費の特例』(相続した土地を売却した時に、相続した際に負担した相続税額の一部が「経費」として認められる特例)というものがありますが、この「相続空き家の3,000万円特別控除」の特例とは併用ができないことになっています。
・どちらかを選んで適用することになります。

最後に

空き家になった実家を相続して後日売却する場合には、『相続した空き家を譲渡した際の譲渡所得の3,000万円特別控除』の特例が受けられる可能性があります。特例を受けるための条件の数は多く、複雑な内容のものも含まれていますが、先ほどの「ポイント(1)から(3)」を中心に対策をして頂くと、専門家の協力を仰ぐ場合でも話しがスムーズに進むものと思われます。
是非、皆さまの保有不動産の活用が必要となる場合に、このコラムの内容をお役立てください。

土地に関するお悩みや投資に関する相談ごとなどお気軽にお問い合わせください。

個⼈のお客様を対象とした土地建物売買、相続対策、遊休地活⽤、
価値向上(Value UP)など、
また法⼈・投資家のお客様を対象にした
CRE戦略、不動産投資顧問、新商品提案、
ポートフオリオ戦略などの
お手伝いをさぜていただきます。