コラム・特集

大家さんの不動産投資と消費税

いよいよ、2019年10月1日より、消費税が8%⇒10%に変更予定です。
ところで、住宅の賃貸収入は、消費税では非課税扱いになります。従って、住宅の賃貸収入しかない個人経営の大家さんにとっては、消費税の申告や納税には関わったことがないのが普通です。しかし場合によっては、個人経営のアパート大家さんでも、消費税の申告や納税が必要になる場合があります。特に「複数のアパートを運営していて、売買を頻繁に行っている個人経営の大家さん」は要注意です。取引金額の大きい不動産売買を行っていると、消費税額も大きくなりがちです。いつもは消費税の申告なんて気にしたことがないので、思わぬ消費税の納付が発生して慌ててしまうことも考えられます。そこで、この機会に消費税の課税の仕組みをご理解されてはいかがでしょうか?

消費税の課税事業者とは?申告・納税義務は?

基本的には消費税の課税事業者になるが、免除される場合もある

消費税の課税の対象となる取引を国内で行っている個人事業者や法人は、一般的に消費税の「課税事業者」になります。消費税の課税事業者に該当すると、消費税の確定申告をしたり、納税を行なうことになります。(注)では、このような個人事業者は、無条件で消費税の課税事業者に該当してしまうのでしょうか。実は、小規模経営を行っている個人事業者は、消費税の課税事業者から除外されます。そのような個人事業者は「免税事業者」といいます。本来必要な消費税の申告や納税が免除されるので、免税事業者と呼んでいるのです。ちなみに、法人についても同様の取扱いがあります。「株式会社〇〇」などの法人のなかにも「免税事業者」に該当している法人があります。ここからは、個人事業者を例に解説を進めていきます。(法人で不動産賃貸事業を行っている大家さんについても、以下ほぼ同じ取扱いとなります。ただ、次で説明します「2年前」の期間の考え方が、個人と若干異なる点に注意してください。)
(注)もちろん、消費税の課税事業者になったとしても、住宅賃料収入といった消費税の非課税売上しかない場合などは、申告や納税は必要ありません。

消費税の免税事業者に該当するのか?…2年前の売上高の実績を見る

ところで、どういった場合に個人事業者が小規模経営を行っているとされて、消費税の申告納税義務が免除されるのでしょうか。小規模経営を行っているかどうかは、2年前の売上高(または収入金額)の実績で判断します。具体的には、2年前の売上高の実績が1,000万円を超えていれば「課税事業者」となります。一方で、実績が1,000万円以下だと「免税事業者」に該当するわけです。ここでの注意点は、今年の売上高の実績ではなく、あくまでも2年前の売上高の実績で判断するのがポイントです。また、実績が1,000万円を超えているかどうかは、消費税が発生する取引を対象とします。消費税の非課税取引に該当する住宅の家賃収入などは含めないで検討します。(注)
(注) 正式には、2年前の消費税の課税対象となる取引の売上実績のことを「基準期間における課税売上高」といいます。ここでは簡単に「課税対象取引の実績」ということにします。
以下、詳しく説明します。例えば、Aさんの2年前の消費税の課税対象取引の実績が1,000万円を超えているとします。この場合、Aさんは今年は消費税の課税事業者になります。Aさんの今年の取引実績は、ここでの判定には関係させませんので注意が必要です。一方で、今年の取引実績が少額であっても、2年前の実績が1,000万円を超えている限り、今年は消費税の課税事業者になってしまうのです。Bさんは、2年前の取引実績が1,000万円以下とします。2年前の取引実績が1,000万円を超えていないので、今年も免税事業者のままです。
次に、1,000万円の計算についての留意点です。
①2年前の課税対象取引の実績が1,000万円のケース 課税事業者に該当するかどうかは、1,000万円を超えているかどうかで判断します。1,000万円の場合は1,000万円を超えていませんので、今年は免税事業者のままです。(Bさんのケース)
②「免税事業者」時代の2年前の課税対象取引の実績は「税込金額」で判定します。 過去一度も課税事業者になったことがないAさんの2年前の課税対象取引の実績は1,080万円としましょう。消費税率8%時代の実績でしたので、税別金額だと1,000万円です。 今年のAさんは免税事業者であると考えてよかったでしょうか。 ここでのAさんは過去一度も課税事業者に該当していないということでした。この場合、課税対象取引の実績は、税別金額1,000万円ではなく、税込金額1,080万円とします。  免税事業者時代の実績については、消費税が免除されているので消費税そのものは発生していないと考えます。すなわち、Aさんについては、今年は課税事業者になります。

2年前の消費税を今年納める?

では、今年は「課税事業者」に該当したAさんですが、消費税はいくら納めるのでしょうか。2年前の実績1,000万円超(1,080万円)の判定の結果、課税事業者になったのだから、2年前に納税していなかった消費税80万円を本年分として申告して納付するように思えますが、そうではありません。この2年前の実績は、「あくまでも今年は消費税の課税事業者に該当しているかどうか」を判断するために使うのであって、今年の消費税の納税額の計算するために使うものではないのです。本年分として申告納税する消費税額は、今年の課税対象取引の実績に応じて計算していきます。

基本的にアパート大家さんは、消費税の課税事業者にはなりません。

個人経営のアパート大家さんは、ワンルームマンションを1区画でも賃貸していると個人事業者になります。個人事業者だと消費税の課税対象者になる可能性があります。しかし、住宅家賃収入のみしか受け取っていない個人経営の大家さん(アパート大家さん)については、消費税の課税事業者には該当しません。住宅の賃貸収入は消費税では非課税とされていて、2年前の課税対象取引の売上高の実績にはカウントはされません。つまり、2年前のアパート賃料収入が1,000万円を超えているとしても、他に収入が無ければ、アパート大家さんは消費税の課税事業者には該当することはないのです。

建物部分を1,000万円を超える価額で売却すると、アパート大家さんでも消費税の課税事業者に該当する

消費税の課税事業者に該当しそうでない個人経営のアパート大家さんですが、アパートの売却で消費税の課税事業者に該当する場合が考えられます。先ほど、消費税の課税事業者になるかどうかは、2年前の消費税の課税対象となる取引の売上高の実績が1,000万円を超えているかどうかで判断をすることをご説明しました。そして、アパートを売却した場合は、「建物部分」が消費税の課税対象取引となります。建物部分の売却代金は、一部のワンルームマンションの区分所有を除くと、ほぼ1,000万円を超えてくると思われます。つまり、2年前にアパートを売却している場合は今年の消費税の課税事業者に該当します。また、今年、アパートを売却している場合は、2年後の消費税の課税事業者に該当すると考えるべきです。(例えば古い建物を売却しているケースでは1,000万円も値が付かないかもしれません。ここでは、建物代金は1,000万円を超えているものとしてご説明していきます。)

アパート大家さんが消費税の課税事業者に該当した年にアパートを売却すると、消費税の申告と納税が必要になる

賃貸アパート経営をしている個人大家さんでも、継続してアパートを売却をしている場合は、消費税の課税事業者になり、思わぬところで申告や納税が必要になるケースが想定されます。(反復・継続して購入・売却を進めると、宅地建物取引業に抵触することもありますので、注意が必要です。)
以下、具体的に説明します。
例えば、2年前に建物を売却したCさん。建物部分を1,000万円を超える価額で売却しています。今年の売上が家賃収入だけの場合でも、今年は消費税の課税事業者となります。ただ、今年の収入が消費税では非課税扱いとなるアパートの家賃収入だけなので、結果的に申告・納税義務は生じないこととなります。
一方で2年前に建物を売却したDさん。同様に建物部分を1,000万円を超える価額で売却しています。さらに今年も建物を売却した場合は、消費税の課税事業者に該当し、申告納税義務が発生します。Dさんのように、2年前の取引の売上高の実績(消費税対象)次第で課税業者かどうかが決まり、課税業者期間中の売上高の中に、建物売却収入など消費税の課税対象取引が含まれていると、申告・納税義務が必要となるのです。

アパート大家さんの売上高には様々な消費税の課税対象になる売上が含まれている

2年前に建物を売却していても今年はアパート賃料収入しか受け取っていないと、消費税の課税事業者には該当していても、住宅家賃収入は消費税の非課税取引なので、結果的に消費税の申告・納税は不要になるとご説明しました。ところで、アパート大家さんは、本当にテナントから消費税の非課税対象になるアパート賃料しか受け取っていないのでしょうか。アパートのテナントから家賃以外に共益費や礼金、更新料などを受け取ることもあると思います。これらも家賃として取扱うこととされており、消費税の非課税取引と考えます。では、テナントが退去する場合に受け取る原状回復費用はどうでしょうか。これは、大家さんが部屋の修理代として受け取るものでアパートの家賃収入とは異なり、課税対象取引に該当します。また、よくある例だと、アパートの特定のテナントに賃貸する駐車場収入も課税対象取引になります。もし、他にテナントから原状回復費の収入や駐車場収入などがあれば、少額とはいえども課税対象取引が発生しているので、その年の消費税について申告・納税が生じると考えられます。

最後にアパートを経営する個人大家さんは、通常、消費税の課税事業者には該当せず、消費税の確定申告書を税務署に提出したり、納税をすることはありません。しかしながら、たまたま2年前にアパートを売却していた場合は、今年に関しては消費税の課税事業者に該当する可能性があります。(建物の売却収入が1,000万円を超えているケースがほとんどと思われます。)そして、課税事業者に該当した年に、消費税の課税対象となる売上高や収入が発生すると、消費税の申告・納税義務が必要となるのです。特に、アパートを何棟も保有している大家さんで、2年前にもアパートを売却していて今年も別のアパートを売却している場合は、納税額が高額になることも想定されるので注意が必要です。さらに、2年後も消費税の申告・納税義務にも気を付けましょう。最後になりました。そもそも不動産の売買は、自分にとって納得ができる条件を提示してくれる相手が現れるかどうかで決めるもので、消費税の課税事業者に該当しているかどうかで決めるものではありません。ただ、イレギュラーな消費税の申告義務や負担に気付き慌てて対応することがないように、日ごろから消費税の課税の仕組みを理解して、毎年の消費税の課税対象取引の売上高の実績を把握しておくことが重要だといえます。

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